広い国土に多数の世界一やアフリカNo1を抱えるタンザニアですが民族の多様性は見逃されがちです。今回はマサイ族よりも古く保守的とされるある部族の生活スペースにお邪魔してきました。
謎のハンター.
タンザニアはアフリカでも有数の多民族国家で126の部族が全土で暮らしています。その中でもハッザ人の伝統的ライフスタイルは学術的にも重要視されており私の心に数年来引っかかったままでした。ブッシュマンという映画でも取り上げられたコイ・サン族は知られるとおり狩猟採集民族ですが、タンザニアのハザベ族(複数形)も同様で、さらに興味が沸くのは双方ともに舌打ちを発音に取り入れている点です。系統的つながりが無いにも関わらず似たような形質を共有する、こういう現象を平行進化と呼びます。
文化プログラム.
数ある大地溝帯に横たわる湖の中でもほとんど話題に出ないのがエヤシ湖。フラミンゴがいないからでしょうか。その湖周辺がハザベ族の伝統的な狩場となっています。ンゴロンゴロの近くの町であるカラトゥで左折した後未舗装道路を2時間走ると到着します。湖畔には2軒のホテルさえあります。
タンザニアの数ある美点のひとつとして、観光局による取りまとめの下で全国に伝統文化観光事務所(カルチャーツーリズムプログラム)が設置されていて、今回のエヤシ湖も例外ではなく彼らの助けを得て実現したものです。事前にスタッフに連絡しておき、当日は事務所で手続きを終えてからハザベ族の集落に車で向かいます。
女性の業務.
観光客からすると伝統的ハンティングのテクニックに注目しがちですが、実際のところ彼らが口にする食料の7割は女性が集めてくる根っこやバオバブの実が占めるそうです。集落に着くと女性達は木陰でくつろいでいました。ガイドさんによれば男達の生活圏は少し離れた場所にするそうで、これは狩りに使う毒矢から子どもを遠ざけておく知恵だそうです。地べたに座って何を話しているのかさっぱり分かりませんでしたが、時折聞こえてくるクリック音には驚かされました。ハザベ語は世界中の言語の中でも相当複雑な発音様式を持つそうです。
こだわりの一品.
女性の集落を後にして、次は男性の集まる一時的なキャンプを訪れました。獲物を追って移動する彼らは狩りの途中で簡単なねぐらを作り拠点とするそうです。クドゥーなど大きな獲物が得られた時は意気揚々と女性の待つベースキャンプに戻り盛大な晩餐となります。道具の中でも弓矢は特に大事で、ちょっと見せてもらいましたが一本ずつ丁寧な装飾と工夫がしてありました。5千シリングを払って最後には右端の鳥撃ち用の矢を頂いてきました。ちなみに左端の黒い部分には神経毒がたっぷり塗りつけてあり、解毒剤が発見されていない事実と考え合わせると緊張が自ずと走りました。
まさに超人.
時間は10時頃で日も高かったのですが無理を言って少年達に狩りのデモンストレーションを見せてもらいました。本来は朝晩に本気の狩りをするそうですから前述のエヤシ湖沿いの宿に前夜泊まっておくほうがベターな体験となるでしょう。彼らが英語を解さないこともありますが、ケニアのマサイ族みたいに親切でもないし笑顔も見せないし、彼らが素早く藪の中を走る後をただただ私が息を切らせながら黙って着いて行く、というとてもプリミティブだけど真実味のある1時間となりました。
彼らの動きから様々な感動を与えられました。一匹のリスを発見すると犬と一緒に追回し、トゲトゲの藪の中に消えたので諦めると思ったら3人で取り囲み、最後は矢で仕留めました。可愛らしいリスがわき腹を串刺しにされて口から少量の血を吐いていました。一人の少年は木を見上げ、やおら垂直に矢を放った姿の美しさたるや、カメラを掴むのを忘れました。
一杯の藪リス.
もう私に目もくれずどかっと腰を下ろし、マッチ無しで火を起こした後はリスの丸焼きに取りかかってくれました。毛を焦がして取り除き、頭は同行した犬に放っていました。リーダーの少年が信頼されており、獲物は均等に分け合うルールがあることが見て取れました。他の少年は騒がず回ってくる肉を静かに口に運ぶだけなんです。私にも一片の肉をくれました。リスって結構赤身の肉で味が強いんですね。
ついでにダトガ人.
超感動してハザベ族の生活圏から辞去した私は、帰り道だからという理由で全く別の暮らしをするダトガ族の家に立ち寄りました。マサイのような放牧が基本ですがトウモロコシなど穀物も口にするそうです。男性達は牛の放牧のために村には不在でしたがお母さん達がいろいろ見せてくれました。他にも山羊を主に所有するイラキ族というのも付近にいるそうで、タンザニアで行われているカルチャーツアーの実力を見せつけられた一日となりました。
Was there on 2014-09-29