セレンゲティの中央部に突如ケンピンスキーグループの一員として登場した後、このホテルは数年ごとに出世魚のように名前を変えてきた経緯があります。ビリラロッジからフォーシーズンズへ身売りした時にはある旅行会社から値上げ分の支払いを拒否された苦い思い出もあります。ボトムでも一部屋1,540ドルという強気な態度に見合う価値があるのかどうかを検証するために一泊してきました。
まずまずのロケーション.
広大すぎるセレンゲティでは闇雲に走り回って動物を探すことはありません。枯れることのない川とカバの棲むヒッポプールがあり、ネイチャーセンターやピクニックサイト、プロペラ機が離発着する滑走路などこれら全てが集まっているのがセロネラ地区で、このエリアに近い宿ほどサファリを行う際の利便性が高いと私は断言します。その意味ではセロネラワイルドライフという古くて簡素なロッジがベストだったのですが昨年12月にキッチンが焼けて以来、いまだに閉まったままなのは残念なことです。
本や雑誌で目にする一面の大草原という風景は実は南の公園ゲートから始まるもののセロネラの手前で終わってしまい、以北はなだらかな丘や低木が茂る環境が続いています。4シーズンズが実際に建つ場所は小高い丘でも無く草原を見渡すこともできませんが、セロネラまでメイン道路を使って一時間以内にアクセスできる点で合格と言えるでしょう。ちなみにセロネラの西方にあるソパロッジからセロネラまでは所要45分で途中は藪が深く動物の影は薄いです。
ランチは5時までどうぞ.
今回は空路で乗りつけてから遅めのランチを取るべく宿への道を急ぎました。チェックインを済ませてからこの日のランチ場所に指定されていたMajiバー(スワヒリ語で水の意)へ向かうとランチメニューは5時まで頼めると聞かされてびっくり。利用客至上主義で知られるホテルグループの実力を見せつけられた最初の瞬間となりました。前述のセロネラ地区までロングサファリを敢行したならば宿に戻ってくるのはどうしたって遅くなります。そういう需要に対応したいと考える宿側の気持ちが5時閉店という結果を導いたのでしょう。
バー&ラウンジ&博物館.
このマジ・バーの室内側にはバーカウンターと数多くのソファが用意されています。滞在プランは必ずドリンク込みになっているのでお酒好きにはたまりませんね。バーの向かい側にはヌーの大移動のドラマの全容が理解できるような展示物とミニ博物館があって知的好奇心を満たしてくれます。そういえば客室にも周辺の環境、動物相、マサイ族の文化を詳しく理解できるような冊子が用意されていて母国から図鑑を持ってくる必要のないよう配慮がされていました。ちなみに自室のミニバーだけは入室時に空になっていて、中身を持って来させると料金が発生するのでご注意ください。
食べきれないディナー.
この日の夕食はKulaレストラン(スワヒリ語で食べるという意)が会場になっていました。アジアがテーマのひとつになっていたようで、チョイスしたトムヤンクンの酸味が旅の疲れをどれほど癒してくれたことか。
通常ルームだけでも77室ありますので食事がバイキングになるのはしょうがありません。しかしカウンターの上にはこれまでに見たことのない種類の料理が一度に並んでいて圧倒されました。三日に一度は屋外のBomaグリルでキャンドルとマサイダンスつきのバーベキューディナーも味わえるそうですから連泊しても変化がつきますね。こちらは当日の5時までに予約と開催の確認が必要になります。
朝食.
朝も日の出前からKulaレストランはオープンします。フレンチプレスの酸味が目立つコーヒーをすすりつつプールを眺めて朝日を待ちました。黄色いハタオリドリがプール横の枝に巣を作りつつあり忙しそうにしていました。日によってはMajiバーのほうも朝食向けにオープンするそうです。
サバンナルーム.
気になる客室ですが、大都市にあるホテルのスイートルームをサバンナに力づくで持ってきた、と言えるでしょうか。不便さや狭さを微塵も感じさせない点が異様です。チャンネルのひとつに水飲み場に設置された定点カメラからの映像が割当てられていて、ゾウが遊びに来たら部屋を出て歩いて見に行けるなんて素敵じゃないですか。
バスルームはベッドから向かって右の引き戸の中に余裕を持ったデザインで配置されていて、ボトムカテゴリーであるサバンナルームでもバスタブから外界の風景が見られるようになっています。ガラス張りのシャワールームはレインシャワーになっていてアメニティはフランス製です。
洗面シンクは二組ありサファリ前の早朝でも奪い合いは生じないでしょう。ベッドから向かって左の通路には化粧台、ミニバー、クローゼットがまとめてあってウォークインできるようになっています。以上がサバンナルームと呼ばれる地上階の部屋の様子です。同じ棟でも階段を上った上階に並んでいるのがホライズンという名の部屋カテゴリーで、眺望がわずかに良い他は内装などは同じです。
テラススイート.
宿泊ブロックは同じデザインのものが六つあり、それぞれの角部屋がテラススイートとして別扱いになっています。一番の差異は写真にある自分専用プール。水が大平原へ落ち込んで行くようなデザインは正にプライスレス。スイートの中でもプール横のゾウさんが遊びに来る水飲み場に面した部屋は200ドルが加算されたウォーターホールルームとして別料金で販売されています。スイートとは別に5種類の独立したヴィラがレストラン棟からよほど離れた場所に建てられていて、日常の行き来はゴルフカートによってアシストされます。
まとめ.
世界遺産のど真ん中に建てられたこのラグジュアリーホテルの価値は、豪華ホテルマニアと動物マニアという本来なら相反する種類の人間達を同時に楽しませることができるという点において他に類を見ないのではないでしょうか。私はこれまでに豪華だけどサファリを十分に楽しめない感じのする高額キャンプを数軒見てきました。一方で動物至上主義者は食事や部屋にこだわることを蔑視する傾向にあるようにも思います。両方の興味を最高レベルにまで高めて保持しているのは例えばディカプリオやゲイツ氏のような人達だと思いますが、彼らがこのホテルに休んだとしても満足する様子が私には思い浮かびます。そんなホテルがフォーシーズンズなのです。
Was there on 2016-05-11